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第3話 全員が、あのときの彼だった

last update Veröffentlichungsdatum: 16.09.2026 19:09:02

それから三日、私はずっと四人を見ていました。

証拠が欲しかったのだと思います。

世界のほうが間違っているのだと証明できるものが、ひとつでもあれば。

だから私は、四人をよく見ました。

ノートを取る手つきも、笑い方も、廊下の曲がり方も。

二日目の昼休み、新太くんが購買のパンを二つ買ってきて、片方を私に押しつけました。

私が「ありがとうございます」と言ったら、新太くんは目をそらして、右手の親指で人差し指の付け根をかりかりと掻きました。

私はパンの袋を持ったまま、動けなくなりました。

その仕草を、私は三年間、数えきれないくらい見てきました。

照れたときと、下手な嘘をついたときにだけ出る癖です。

誰にも言ったことはありません。

たぶん、和樹くん本人も気づいていません。

三日目の放課後、幸也くんが「あのさ、」と切り出して、夏休みの宿題を見せてほしいと言いました。

四日目の昼、久遠くんがノートを取る手は左でした。

それなのに、お弁当の箸は右手で持っていました。

「久遠くん、左利きですよね」

「ああ」

「お箸だけ、右なんですね」

久遠くんは、少しだけ手を止めました。

「小さいころに、婆ちゃんに直された」

和樹くんと、一字一句、同じ答えでした。

和樹くんの癖の数々が、すべて四人の中にありました。

間違えようがありません。

私はそれを、三年間見てきたのですから。

もうひとつ、確かめたことがあります。

四人とも、言いにくいことを切り出すときに「あのさ、」から入るのです。

新太くんは「あのさ、明日部活休みだから」。

幸也くんは「あのさ、宿題」。

久遠くんは「あのさ」とだけ言って、そのまま黙ってしまいました。

四人とも、目の形が同じでした。

笑うと、右の頬にだけ笑窪えくぼができるところも同じでした。

耳の形まで同じでした。

それでも私は、一度も四人を間違えませんでした。

間違えられたらよかったのに、と思いました。

誰が誰だか分からなければ、まだ楽だったはずです。

髪の長さが違います。

肩幅が違います。

歩幅も、声の高さも、制服の着方も違います。

四人が並んでいたら、後ろ姿だけで誰が誰か分かってしまいます。

それなのに、笑ったときに出る笑窪の位置だけが、四つとも同じなのです。

金曜日、私は決定的なことをしました。

部活のない放課後、四人が教室に残っていたので、紙袋を出したのです。

「差し入れです。四人とも、チョコは苦手でしたよね」

中身は、うちの祖母が買ってくる類の詰め合わせでした。

小袋のお煎餅と、柿の種と、甘納豆。

四人が、同時に、同じ顔をしました。

嬉しそうな顔です。

高校生の男の子が、部活帰りにする顔ではありません。

「澪、なんで」

新太くんが言いかけて、幸也くんが最後まで言いました。

「なんで俺がチョコ苦手って知ってるの」

教室が、しんとしました。

四人が、お互いの顔を見ました。

「……お前も?」

「え、新太も駄目なの」

「言ったことないだろ、そんなこと」

「言うかよ、こんなの。恥ずかしいだろ」

「え、待って。俺も駄目なんだけど」

幸也くんが小さく手を挙げました。

教室の空気が、一段おかしくなりました。

「四つ子だからじゃないの」

誰かがそう言いました。

たぶん、そうやって片づけるしかなかったのだと思います。

「そんなことあるか?」

「あるだろ、たぶん」

あるはずがありません。

ないから、私はここにいるのです。

久遠くんだけが、何も言わずに私を見ていました。

私は笑ってごまかしました。

たぶん、うまくできていなかったと思います。

その日、帰り道でそれぞれが私に言いました。

新太くんは「一人で帰るな。危ないから」と言って、遠回りなのに家まで送ってくれました。

幸也くんは駅前で私を待っていて、新作のクレープを二つ買って、片方を私に持たせて、ずっと私を笑わせていました。

久遠くんは、私が誰にも言っていない寝不足を見抜いて、「無理してる」とだけ言いました。

どうして分かったんですかと聞いたら、久遠くんは「顔を見てれば分かる」と言いました。

それだけです。

理由も、心配の言葉もありませんでした。

それなのに次の日の朝、私の鞄に栄養ドリンクが一本入っていました。

和樹くんは、何も言いませんでした。

ただ隣にいて、私の歩幅に合わせて歩きました。

沈黙が気まずくならないのは、この人だけです。

何も起きない時間を、そのまま一緒に過ごせるのは。

四人とも、私のことが好きなのだと分かりました。

同じくらい、まっすぐに。

鞄を玄関に放り出して、私は走りました。

八月の夕方の、まだ熱を持ったアスファルトを蹴って、結守神社の石段を一段飛ばしで駆け上がりました。

息が上がって、途中で膝に手をつきました。

和樹くんなら、ここで立ち止まったはずです。

この石段を、私は和樹くんと何度ものぼりました。

いつも途中で休みました。

休むたびに和樹くんは笑って、「体力なくてごめん」と言いました。

私はそのたびに、ゆっくりでいいですよと答えました。

今の私は、一人で駆け上がれてしまいます。

そう思った瞬間に、涙が出ました。

「結守さま」

誰もいない境内に、私の声だけが響きました。

「結守さま、お願いです。返してください」

「返す?」

声がしました。

高い、幼い、子どもの声でした。

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